映画『4ヶ月、3週と2日』(07)で、ルーマニア映画初のパルムドール(最高賞)に輝いたクリスティアン・ムンジウ監督。いまや世界で最も次回作が待望される監督の一人と言っても過言ではない、ムンジウの最新作『汚(けが)れなき祈り』は、満を持して第65回カンヌ国際映画祭に出品され、見事、女優賞と脚本賞のW受賞を果たした。同映画祭のコンペ部門では唯一の2部門受賞を果たし、ムンジウの才能が紛れもない本物であることを証明した。
ルーマニア映画初の女優賞を獲得したのは、ムンジウによって見出され、本作で映画初出演となる新人女優の二人。修道院を舞台に友情を超えた深い絆で結ばれている二人という難しい役どころを、迫真の演技で見せる。また本作は、2013年アカデミー賞外国語映画賞ルーマニア代表作品に選出された。
本作は、2005年にルーマニアの修道院で実際に起きた悪魔憑き事件を基に、互いに深い絆で結ばれていたはずの幼なじみ二人が、信仰と愛のはざまで揺れ動き葛藤する様を描いたヒューマンドラマ。題材をただセンセーショナルに扱うことなく、事の真相や渦中にいた人々の姿を、緻密な脚本と徹底したリアリズムで描き出す。
映画は、特殊な社会で起こった事件を描いているが、現代の孤立・閉塞感がすすむ世界中のあらゆる社会で起こりうる悲劇といえるかもしれない。パルムドール受賞監督の新たなる意欲作は、共同プロデュースにダルデンヌ兄弟を迎え、圧倒的な表現力で、あなたの心を強烈に揺さぶることだろう。
幼少時代を同じ孤児院で過ごした二人の若き娘、アリーナとヴォイキツァ。ドイツで暮らしていたアリーナは、修道院にいるヴォイキツァを訪ねて、一時的にルーマニアに戻ってくる。ヴォイキツァが入っている修道院は、町から少し離れた丘の上にある。季節は冬。まだ雪は降っていない。修道院では復活祭の準備が進められていた―。
アリーナの願いは、世界でただひとり愛するヴォイキツァと一緒に居ること。しかし、ヴォイキツァは、神の愛に目覚めて、修道院での暮らしに満ち足りていた。彼女を取り戻そうとするアリーナは、次第に精神を患っていく。アリーナは、突如、発作を起こし、病院へ運ばれるが、原因は分からない。修道院では、アリーナの病が悪魔の仕業であるとみなし、彼女を救うために、ある決断するのだが―。