猟師が、猟の様子を人に明かすのは異例なこと。
山のどこを見て、どんなふうにわなをしかけるのか、千松さんの視線と観点と工夫を見られるのも、
この映画の魅力のひとつです。鑑賞の一助に、猟にまつわる基本的な言葉を解説しました。
網、わな、銃で猟をするなら必ず持っていなければなりません。千松さんが取得した19年前は、網猟とわな猟は「甲種」とひとくくりでしたが、今はそれぞれでわかれています。もちろん、銃猟も、銃の種類に合わせた免許が必要です。
イノシシ、シカなどの獲物が、輪の中に足を入れると、即座にバネが働き、輪が締まり、「くくる」わな。わなは、木などに繋げてあり、獲物は生け捕りになるので、毎日の見回りがかかせません。クマを誤って捕獲してしまわないように、輪を直径12cm以下にしなければならないなど、細かい仕様規定があります。千松さんは、ワイヤーと塩ビ管などで自作していますが、原理的には木やツルなどの自然物でつくることもできる、とても原初的なわなです。ちなみに、トラバサミの使用は禁止されています。
「猟期」と呼ばれ、北海道以外の全国ではおおむね11月15日から2月15日と定められています。もとは「鳥獣の保護を図る観点から」設定されましたが、獣害被害の拡大により、皮肉にもその期間は全国的に伸びています。現在、千松さんが猟場とする京都府では、ニホンジカ、イノシシに限っては、3月15日まで延長されています。
シカ、イノシシ、サルなどに、田んぼや畑の作物を荒らされる被害が、近年とても増えています。平成30年度の被害金額は約158億円にのぼりました。森が荒廃し、山を降りた、と短絡しがちですが、理由は複合的です。電気柵の設置、「駆除」に対する報奨金制度、食肉としての流通への取り組みなど、各農家、各自治体が対応策を練っています。千松さんは、「獣害はあっても、害獣はいない」とよく言います。参考=千松さんの著書『けもの道の歩き方』
地面に広げた大きな網で、鳥を文字通り一網打尽にします。繋げたロープを、引っ張ると網が反転する仕掛けです。本映画の名バイプレヤー・宮本宗雄さんの操るのは、左右に2枚の網があるので「双(ふた)無双網」とも呼ばれます。狙うのは、スズメ、カモ、ヒヨドリなどです。鳥の網猟というと違法猟法のカスミ網が有名ですが、無双網は法定猟具に指定されている伝統猟法です。
法律で「獲ってよい」とされている動物は、以下の48種類です。なお、都道府県によっては捕獲が禁止されていたり、捕獲数が制限されている場合があります。
・鳥類(28種類)
カワウ、ゴイサギ、マガモ、カルガモ、コガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、スズガモ、クロガモ、エゾライチョウ、ヤマドリ(コシジロヤマドリを除く)、キジ、コジュケイ、バン、ヤマシギ、タシギ、キジバト、ヒヨドリ、ニュウナイスズメ、スズメ、ムクドリ、ミヤマガラス、ハシボソガラス、ハシブトガラス
・獣類(20種類)
タヌキ、キツネ、ノイヌ、ノネコ、テン(ツシマテンを除く。)、イタチ(雄)、チョウセンイタチ(雄)、ミンク、アナグマ、アライグマ、ヒグマ、ツキノワグマ、ハクビシン、イノシシ、ニホンジカ、タイワンリス、シマリス、ヌ-トリア、ユキウサギ、ノウサギ
下調べした場所に、猟期が始まると、くくりわなを仕掛けます。そのひとつひとつを毎日、欠かさず見回ります。獲れていたときは、木の棒などで殴打し気絶させたのち、心臓付近の大動脈をナイフで刺し、絶命させます。心臓のポンプ機能が働いた状態で放血します。よく血が抜けた肉はくさみがありません。山から下ろし、内臓を抜き、水を入れ凍らせたペットボトルを詰めるなどして、すばやく冷やします。これも美味しく食べるためにはなるべく迅速にする必要があります。仕事のある日は見回りが夕方から夜になることもあり、解体は深夜になることもあります。猟期はわなを架設している限り、これを毎日繰り返します。