ベルイマン作品の象徴③―女たちへの眼差し

 そして、最後に注目したいのが女性に向けられたベルイマンの眼差しだ。ゴダールは前掲同書で以下のように語っている。「彼は女たちを愛していて、だから女たちを観察しているのです……あたかも学者がするかのように……動物学者が資料としての側面をもった自分の研究対象の動物を観察するかのように、女たちを観察しているのです」
 女性を題材にし、多くの監督たちに影響を及ぼしている作品といえば、やはり『ペルソナ』だろう。タルコフスキーは以下のように語っている。「ベルイマンの『ペルソナ』を観るたびに、私にはこの作品がまったく異なったことがら、対立矛盾したことがらについて語っている映画のように思える。毎回、私はこの作品をまったく別のもののように感じるのだ」(★5)
 ロバート・アルトマンの場合は、ベルイマン作品のなかでも特に『ペルソナ』から直接的な影響を受けている。以下のような発言がそれを物語っている。「深い感銘を受けた映画だった。あの映画のせいで『イメージズ』と『三人の女』が生まれたといってもいい。これは確かだ。『ペルソナ』にはパワーがあった。あの力は何よりもひとりの女が話し、もうひとりは話さないという事情に負っていると私は思う」(★6)
 その『イメージズ』では、夫の浮気を疑う主婦が過去の幻想にとらわれ、『三人の女』では、『ペルソナ』のようにふたりの女の間で人格が入れ替わるようなことが起こり、話さない女も登場する。リンチの『マルホランド・ドライブ』では、話す女と話さない女が、演じる女と記憶を失った女に置き換えられる。さらに、クシシュトフ・キェシロフスキの『ふたりのベロニカ』やフランソワ・オゾンの『スイミング・プール』、アトム・エゴヤンの『クロエ』といった作品も、おそらく女性を観察するベルイマンの眼差しと無縁ではない。
 このようにベルイマンの遺産は様々なかたちで現代の映画に引き継がれている。記憶や
狂気や夢といった内面も含めた人間の在り様を映像を通して掘り下げようとすれば、彼が
切り拓いた世界を避けて通るわけにはいかないだろう。

《参考/引用文献》
★1 『ゴダール 映画史Ⅰ・Ⅱ』ジャン=リュック・ゴダール 奥村昭夫訳(筑摩書房)
★2 http://www.guardian.co.uk/film/2005/sep/23/2
★3 『ラース・フォン・トリアー――スティーグ・ビョークマンとの対話』
ラース・フォン・トリアー+スティーグ・ビュークマン オスターグレン晴子訳(水声社)
★4 『ベルイマンの世界』ジャック・シクリエ 浅沼圭司訳(竹内書店)
★5 『タルコフスキイの映画術』アンドレイ・タルコフスキイ 扇千恵訳(水声社)
★6 『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』デヴィッド・トンプソン編 川口敦子訳(キネマ旬報)

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