本作は、私自身が遠い昔に読んだトルストイの短編「God Sees the Truth But Waits(神は真実を見給ふ、されど待ち給ふ)」から着想を得ました。今や記憶があるのは物語の前提のみで、詳細や登場人物の名前は忘れてしまっています。しかし読んだ時に、“人生を本当の意味で理解している者はいない"と書かれていたことに衝撃を受けたことは忘れられません。我々が何も分かっていない、ということは、我々の存在についての極めて重要な真実の1つでしょう。言い換えると、我々の中には少なくとも連続性を感じられる人々が存在し、我々が為すことは派生的になり得るということです。さらに多くの場合、我々は人生の虚構に従いそして屈服してしまいます。
1958年12月30日生まれ。フィリピンミンダナオ島コタバトで育つ。本名ラヴレンテ・インディコ・ディアス。監督、脚本、プロデュース、編集、撮影、詩作、作曲、プロダクションデザイナー、そして演技を全てこなす。彼の映画で特徴的なのは「尺の長さ」であり、11時間に及ぶものもある。それだけ長尺なのは、彼の映画が時間ではなく空間や自然の影響を受けているからであろう。彼は映画で、母国の社会的闘争や政治紛争をテーマとして取り上げ、様々な国際的映画祭で称賛を集めている。1998年以降、計12作品の映画を監督し、40以上の賞を受賞。2013年、カンヌ国際映画祭ある視点部門にて『北(ノルテ)―歴史の終わり』が上映され、“カンヌで上映された最も美しい映画のうちの1作"と絶賛される。これ以降、マルセイユ国際映画祭コンペティション部門の審査員、ロカルノ国際映画祭で審査委員長を務めるなど、国際的な認知度がさらに高まった。2014年『昔のはじまり』にてロカルノ国際映画祭金豹賞を受賞。2016年2月、8時間の大作『痛ましき謎への子守唄』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞、同年9月、『立ち去った女』でベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。1年のうちに世界3大映画祭の2つで金と銀を獲る快挙を成し遂げた。いまや世界中がその動向を注目する突出した存在である。